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小畑館長に、ふれる。
小畑洋
小畑洋

ニフレルのコンセプトは、「感性にふれる」。自然や生きものとの「つながり」を感じて、さまざまな驚きや感動にふれていただくことを目指しています。ニフレル誕生のキーマンである小畑館長と一緒にニフレルに込められたさまざまな思いをひもときます。

聞き手 :EXPOCITYに進出することになり、なぜ海遊館とは違う新しいコンセプトの「ニフレル」を作ろうと思われたのですか?

小畑館長:ニフレルのあるEXPOCITYと海遊館は、電車で一時間程度とそんなに遠くない立地なので、似たようなものをつくっても意味がないと思いました。私は海遊館にオープン前から関わったスタッフの一人ですが、海遊館は太平洋を中心に各地域の海の環境をダイナミックな構成で疑似体験してもらおうというコンセプトでできた水族館です。魚たちの棲む環境を見ていただくために大きい水槽がメインで、その分、個々の魚をじっくり見ることは難しくなる。そこで、海遊館では表現できないことをニフレルでやろう、ということにしました。
ニフレルでは生きもの個々にフォーカスを当てています。色彩や行動・形など、生きものの個性をテーマ別にして、その魅力をわかりやすく表現しました。シンプルになった分、今まで気づかなかった小さな生きものにも興味を持っていただけると思います。海遊館とニフレルの両方を見ていただけたら、コンセプトの違いを感じていただきやすいですね。

聞き手 :「ニフレル」というネーミングは、社内の20代の女性が考えられたそうですね。構想期間中は、プロジェクトメンバーが自由な発想で活発に意見交換されたんですか?

小畑館長:ネーミングは、最初はおじさんばかりで考えていました。「アクア○○」とか、「バイオ○○」とか、「○○エキスポ」とか・・・(笑)どうしても説明的になってしまう。何か違うと感じて、もっといろんな感性の人と一緒に考えたくなって、いろんな人を巻き込んでミーティングしました。そうしたら20代の女性社員が「感性にふれるの“にふれる”って、いいですよね。感性にふれる、感動にふれる、驚きにふれる、水にふれる・・・なにより、かわいいじゃないですか」と言ったんです。目からウロコが落ちました。響きも意味合いもいいし、やさしい感じもあって、「いいね!」ということになりました。
他にもいろんな意見を聞いて良くなったことは、たくさんあります。最後のゾーン、「つながりにふれる」で観ていただくムービーは、ニフレルのコンセプトでもある生物多様性を表現していますが、最初の試作は動物たちのシーンばかりで構成されていて、何かピンとこなかったんです。そこで、またその女性社員に観せたら「これでは共感できません」と言う。自分と同年代の女の子が出てきたら、まずそこに共感できるのではないか、他人事じゃない気がすると思うと。思い切って彼女に任せてみたら、他にはないとてもいいムービーになりました。みんな感性が違いますから、いろんな人の関わりが大事。いろんな刺激を受けて、いろんな人といろんな話をして作り上げていくなかで、人の多様さを理解できました。そうした経緯も、展示に生きているのではないかと思います。

聞き手 :コンセプトを「生きているミュージアム」という現在進行形にされた理由を教えてください。

小畑館長:生きものの多様性、人も含めてみんな生きているんだ、ということを感じてほしいという想いがあります。それには「可変性」が大事な要素になります。今ようやくカタチになってスタートしましたが、ニフレルはここからどんどん成長していきます。生きものたちのように進化適応していかなければなりません。それは前に進むことかもしれないし、いったん戻ることかもしれません。場所も、人も、生きものも、総合的に進化していくのではないかと思っています。

聞き手 :生きものを「アート」のような感覚で見られるように作ろうと思われたのは何故ですか?

小畑館長:個々の生きものが埋没しないように、その魅力に気付きやすいようにするには、アートの手法が有効だと思ったんです。きれいな水の美しい水槽に一匹だけ泳ぐ生きもの。その不思議な形や鮮やかな色はまさに自然が作ったアートそのものです。絵画やアート作品を見るようにじっくり目を凝らして見ていただけば、今まで感じたことのなかった感性にふれると思います。また、空間自体もアートと捉えていますので、生きものの管理のしやすさにウエイトをおくのではなく、「いろ」や「すがた」などのテーマで生きものと空間全体を表現する「空間展示」という発想に重きを置いています。ですから、生きものに興味がない方にも見ていただいて「おもしろい」と思ってほしい。ニフレルが生きものに興味を持つ「きっかけ」になれば、とてもうれしいですね。

聞き手 :生きものの展示方法や造形物がユニークですが、ニフレルが考える「生きものが暮らしやすい環境」とは、どんな環境でしょうか?

小畑館長:ニフレルでは、生きものの生態を熟知した展示や水質管理といった海遊館での経験やノウハウがあるからこそできる展示手法を取り入れています。
「すがたにふれる」のゾーンでは、生きものによって異なる造形物を入れているのもその一つです。たとえば、ヘコアユという魚は、ウニのカラなど細長いものに入る習性があるので、細長い棒状の造形物を入れています。人の感覚で見ると、無機質で寂しい感じがするかもしれませんが、彼らの生態にとってはむしろ心地のいい棲みやすい空間となるように工夫しています。クリアでシンプルな水槽にしているのにも大きな意味があります。生きものにとって病気の元になりかねないゴミや汚れがすぐにわかるので、水をキレイに維持して生きものを健康に飼育する上では、とても有効な手法なのです。
生きものを人間的な感覚にあてはめてしまうと生きものたちにとってはちょっと違う、ということが少なくありません。「わざにふれる」のサメの水槽では「ハズバンダリートレーニング」を行っています。健康チェックや病気になった時に治療がしやすいように行うトレーニングのことで、サメの場合はえさをあげるときに条件付けをし、サメが暴れることなく採血できるようにしています。海遊館では4年ほど前から取り組んでいます。それまで、魚の健康は「見る」ことしかできませんでしたが、採血をして血を調べれば、その日の体調や体の悪いところがわかる。こうした取り組みも、生きものが暮らしやすい環境づくりに役立っています。「みずべにふれる」のホワイトタイガーには、立体的な造形物をつくることで、生態にあった上下の運動ができるようにしています。また泳ぐのも好きなので、大きな水槽も作ってあります。1頭だと寂しくないですか?と質問されることがありますが、トラは基本的に単独行動なので1頭で大丈夫なんです。ただ、退屈し過ぎるとよくないので、キュレーターが常にモニターでチェックし、天井からロープで引っ張りっこをしたり、風船を落として割らせたりして一緒に遊びます。逆に遊びたくない様子のときは、そっとしておく。そうすると安心して昼寝をしたりする。生きものに対してキュレーターの人数を十分配置しているので、こまめなケアができていると思います。

小畑館長_コラージュ

聞き手 :オープンした後、予想外だったお客様の反応やうれしい誤算はありましたか?

小畑館長:「ワンダーモーメンツ」での子どもたちの反応ですね。この吹き抜けの大きなスペースには、あえて生きものをいれないアート作品を作りたいと思い、アーティストの松尾高弘さんにお願いしました。以前、松尾さんの作品を見たときに、子どもの頃に感じた純粋な驚きの経験を思い出したことがあり、そんなふうに季節感や自然をイメージできるものを、ニフレルに採り入れたいと思ったんです。
でも、この空間は暗くて音も大きいので、子どもは怖がってパスしたいと言うんじゃないかと少し心配していたんです。でも蓋を開けてみると一番楽しんでいるのは子どもたちでした。これには驚きましたね。何かを感じるとき、大人は理由を欲しがりますが、子どもは理由なんかいらない。キャーキャー言いながらフロアで寝転がったり、映像に現れる蝶をつかまえようとしたり、魚をさわろうとしたり。感じたままに楽しんでいるんです。大人よりもよっぽど感性が発達しているなと、子どもたちから教わりました。

聞き手 :スタッフのみなさんは、どのような思いで生きものたちと向き合われていますか?

小畑館長:キュレーターをはじめニフレルのスタッフは海遊館での経験を持っています。どうしたら生きものに注目してもらえるかもわかっていますので、スタッフがみなさんに感じてほしいことが展示に盛り込まれています。これまで技術に頼っていた展示が、生きものそのものを引き立てるシンプルな展示に戻ったと感じられる方も多いかもしれませんが、アートのような展示に行き着いたのも、海遊館で培った技術があったからこそだと思います。

聞き手 :私たちがふだんの暮らしの中でも、生きものとの「つながり」を感じるには、どうすればいいでしょうか。

小畑館長:日々の暮らしの中でも気付けば、いろいろな生きものや自然があります。空がきれいだな、雲がいろんなかたちをしているな。と、意識をすればいろんなことが見えてきます。ついつい視野が狭くなりがちですが、そういうことに気付けると、気持ちがふっと軽くなったり、気が紛れたりするものです。ニフレルで「楽しかったね」「おもしろかったね」で終わるのではなく、ここで感じたことを、ここを一歩出たその先で、ぜひ感じ続けてほしいなと思います。

聞き手 :小畑館長は子供のころから生きものが大好きだったのですか?生きものに関心を持つようになったきっかけは何ですか?また、ニフレルで一番好きな生きものは何ですか?

小畑館長:僕は出身が京都府の舞鶴で、海の近くで育ちました。小さいころから海の魚が大好きでしたね。祖母の家が海のすぐそばで、夏休みは朝から晩までずーっと海で過ごす、そんな子どもでした。大学生になると、自分で海に潜って採集して、水槽でたくさんの魚を飼育していました。それは今も続いていて、「海に潜って採って飼育する」が僕のライフワークです。あまりにも魚が好きなので今の職業に就きたいと思ったのですが、就職できたのは本当にラッキーでした(笑)。子どものころ好きだった本に『魚にきいた魚の話』というのがあります。当時の大分マリーンパレス水族館の館長が書かれた本で、その中で東海大学の先生がベラの活動リズムを研究していたんです。ベラは一日の中で「寝る、起きる、砂にもぐる」というリズムがあるのですが、これは光で判断するのではなく体内時計があるらしい、と。おもしろいなあと思いましたね。それが、生きものについて本格的に勉強しようと思ったきっかけです。当然ニフレルにいる生きものは全部好きですが、中でも一番好きな生きものは「ヨダレカケ」と「ジョーフィッシュ」です。かわいいですよ。「わざにふれる」のゾーンにいるので、ぜひじっくり見てください。基本的に小さい魚が好きなんですが、海遊館ではジンベエザメを担当したこともありました。あれはちょっと大きすぎました(笑)。

聞き手 :これから、ニフレルはどのように「生きて」いきますか?ニフレルの「これから」について、構想をお聞かせください。

小畑館長:この場所、この環境に必要な施設になることを目指したいと思っています。「ニフレルがここにあってよかったね」と思ってもらえることが大事です。さらに、ここに来られた人や地元の人たち、社会の役に立ちたいですね。世の中にちょっぴりでも役に立つものになっていくといいなと思います。
世の中に新しいものを提供する時は、どうしても受け手側と溝が生まれますが、そのギャップを埋める必要があります。たとえばニフレルには説明をする「魚名板」を少なくしています。だいたい水族館や動物園というのは、生きものをみて、名前を見て、説明を読んで、納得して、それで終わりというのがパターンですが、ニフレルではそうしたパターンを打ち破りたいと思っています。みなさんが子どもの頃はどうだったでしょうか。名前がわからないと響かない、ということはなかったでしょう。きっと生きものを見て、いろんなことを感じていたはずです。
ここには他の水族館にはない、いくつもの「発見」があります。生きものとシンプルに向き合ってほしい、そのために私たちは新しい気づきがあるような展示をしていきたい。ニフレルは、まだスタートしたばかりで、これから育っていくのだと思います。

いつも笑顔で楽しそうに生きもののお話をされる小畑館長。その深い愛情は生きものたちの方が一番よくわかっているのかもしれません。ニフレルがこれからどのように育つのか、私たちも感性のアンテナを磨いて見守っていきたいと思います。

小畑洋

PROFILE

小畑洋

おばたひろし

株式会社 海遊館
ニフレル事業部長 兼 ニフレル館長
学芸員

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小畑洋

おばたひろし

株式会社 海遊館
ニフレル事業部長 兼 ニフレル館長
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